東京高等裁判所 昭和59年(う)1115号 判決
……前略……路側帯が設けられている道路においては,路側帯を含めた道路の交わる部分を交差点ということ,道路交通法37条は路側帯を含む交差点通行車両全体についてその進行上の優劣関係を規定していること,同法37条にいう車両等には軽車両を含むこと及び路側帯を通行する車両についても直進車優先が適用されることについては原判決の判示するとおりである。従って,右折車は路側帯を適法に通行する自転車等の軽車両の直進車の進行を妨げてはならないことは明らかである。
しかし,路側帯は主として歩行者の通行の用に供するために設けられているもの(ただし,歩行者の通行が禁止されている自動車専用道路の場合を除く。)であって,軽車両だけが,著しく歩行者の通行を妨げることになる場合を除いて,通行を許されているにすぎず,この場合においても軽車両は歩行者の通行を妨げないような速度と方法で通行しなければならないもの(同法17条の2第2項)とされているのである。ところで,路側帯の通行を許される軽車両とは,人又は動物の力により運転する車両に限られる(同法2条1項11号,16条2項)のであって,これらの車両は自動車や原動機付自転車と異なりその性質上低速のものであり,かかる軽車両だけが歩行者の通行を妨げないような速度と方法で通行することを許されているにすぎない路側帯は,本来高速の車両の通行を全く予定していないものと考えられる。もっとも,現実には法律上路側帯の通行を禁止されている原動機付自転車や自動二輪車が路側帯内を通行する事態が時に見られるのであり,このような現実を全く無視することはできないが,このような場合であっても原動機付自転車や自動二輪車の側では適宜速度を調節して進行するのが一般であり,これらの車両が時速50キロメートルもの高速度で路側帯内を通行することは通常予測されないところといわなければならない。そうすると,このような異常な走行をする直進車については,交差点における直進車優先の規定の適用はなく,右折車はかかる直進車に対してまでその進行を妨げてはならない義務があるものとは解されない。……中略……
関係証拠によると,被告人は交通整理の行なわれていない本件T字路交差点で右折すべく,道路の中央線に沿って一時停止したところ,自車に対向して進行中の車両のうち柴嘉秀運転の普通貨物自動車(以下柴車という)が停止して進路を譲ってくれたのを認め,かつ,柴車の左方の通行余地を進行して来る車両も認めなかったので,右折を開始したが,右通行余地を自転車,自動二輪車等が進行して来るのに備えブレーキペダルに右足をのせ左方を注視しながら時速5,6キロメートルの速度で進行したところ,左斜め前方約12メートルの地点を対向して進行して来る松永隆幸運転の自動二輪車(以下松永車という)を認めて急制動し,被告人車の先端がわずかに路側帯内に入った地点で停止したことが認められるのであって,被告人としては右通行余地を対向して進行して来る車両に対して相当の注意を払っていたものと認められる。そして右の程度の注意を払っていれば,路側帯内を適法に進行して来る歩行者や軽車両は勿論,原動機付自転車や自動二輪車が進行して来る場合であっても,それらが適宜速度を調節して進行して来る限り,それらとの衝突を回避することが十分可能であったと認められる。もっとも,右の程度の注意では松永車の如く路側帯内を時速50キロメートルもの速度で進行して来る車両との衝突を回避できないけれども,これを以て被告人の過失とみることは相当でない。すなわち,前説示のとおり路側帯は主として歩行者の通行の用に供するために設けられているものであり,例外的に自転車などの軽車両が歩行者の通行を妨げないような速度と方法で通行することを許されているにすぎないものであって,本来高速の車両の通行を全く予定していないものであるから,自動車運転者としては,路側帯内の通行を禁止されている自動二輪車や原動機付自転車が路側帯内を通行して来ることがあり得るとしても,これらの車両も適宜速度を調節して進行して来ることを期待して良く,自動二輪車が時速50キロメートルもの高速度で路側帯内を進行して来ることを予測して,これとの衝突を回避するため万全の措置をとるまでの義務はないものと解するのが相当であるからである。